長等の春

作曲者:菊岡検校


調弦【三絃】:三下り→本調子→二上り


調弦【箏】:半雲井調子→平調子


歌詞:

賑ふや、春の朝立つ霞晴れ
志賀の都は荒れにしを、長等の山の山桜
昔を今ぞ思ふなる
花の盛りもいちやうに、四方の眺めも尽きせじと
高観音の庭桜、向かふはるかに三上山
隔つる鳰の海の面、その浦々も見えわたる
行き交う舟の楫音も、風の便りに聞ゆなり
遊び戯れ春の暮、名残を惜しむ諸人の
入相告ぐる三井寺の、鐘の声さへ吹き返す
風に連れ立ち散る桜
桜さくらに送られて、唄うて帰へる桜人々


解説:

賑やかなことだ。立ち込めていた霞も晴れてきた。
平家物語に忠度が「さざなみや志賀の都はあれにしを
むかしながらの山桜かな」と唄ったように
長等の山の桜は昔と変わりなく、
どこもかしこも一様に花盛りで、四方の眺めはつきない。
とりわけ高観音の庭桜はよい。
遥か向こうに名高い三上山が、琵琶湖を隔てて高くそびえ
その浦々を行き交う舟の楫の音も、風の吹く毎に聞こえてくる。
遊び戯れた日暮れ、いざ帰ろうと名残を惜しむ人々に
三井寺の鐘が夕暮れを告げて鳴り渡り、その音と共に
吹き返してくる風につれて、桜の花が雪のように散ってきた。
人々はその花びらに送られるように、唄い浮かれて
それぞれの家路に帰っていく。

分類: